小説『怠惰な僕と侵入する君』

まだここにいて良いと思いたくてカーテンを開ける。寝落ちしたときにスマホの画面にヒビが入った。生き物のいない水槽にクスリを溶かし捨てる。ごみのひカレンダーをどこにやったかな。してはいけないと分かっていながらゴシップをあさる。もし僕に、もし僕に子どもがいたら休日に、こんな過ごしかたはしないだろうな。大切にするのにな。事故物件サイトをスクロールする手を止めて、コーヒーを飲む。もし僕に、もし僕に家族がいたらこんな怠惰なことしないのにな。豆からこだわり、カップにこだわり、音楽や空調や会話の内容に気を配りそれから、目の前で僕に無防備な顔を見せている君をいかに愛しているかを訥々と語るか、

ピンポーン。
ゴリゴリ。
ガチャ。
おはよ。

玄関のチャイムが鳴った直後、勝手知ったる隣人が合鍵で入ってくる。

「廃人ごっこおわり」
「もう少し待たない?僕が裸だったらどうするの」
「見慣れてる」
「ほかに恋人を連れ込んでたりとかさあ」
「いま目の前にいるやつより好きなやつとかできんの?無理しょー」
「あ、はい」
「ワッフル買ってきた。食べよう」
「朝から」
「文句?」
「ありません」
「その後出かけよう」
「えー」
「めんどいって言わない」
「分かった」

もし僕に子どもがいたら。
もし僕に家族がいたら。
期待を高める妄想でしかない。
僕はいつだってどうせ君と過ごしただろう。

「コーヒー豆を買いたい」。
「お、豆。いいね」。
「ガーッとするやつも必要だ」。
「名前くらい覚えて」。
「行けばわかる」。
「そういうとこ」。