小説『はすむかいの聖域』

好きでいて優しいものだけに囲まれていたい。そのために無害でいなくてはならない。だが世の真理として毒を持たない生き物は愛されることがない。葛藤。生きるという枠の中で考えるから窮屈で、一歩踏み出せば果てのない回答。安全な毛布のように敷かれている。こんなこと思っていいわけがない。こんなこと思ったまま幸せになれるわけがない。ぼくはクズだ。ぼくはバカだ。ぼくは鈍感で知恵が無く人の言っていることが分からない。自分の発言にさえそんなことないそんなことないと繰り返して自問自答の毎分毎秒。ぼくを守りたい人はどこにもいない。ぼくの守りたいものがどこにもないように。さみしいと言えない。言ったら嫌われる。好かれてもいないけど。自分が自分を嫌うだろう。存在してはいけない最たるもの、自意識過剰の紛れもなく凡人。いつか朽ちる。いつか終わる。だったらその日を早めたら良いのに、橋の向こうできみのつく嘘を知りたくて、また今日も産まれてしまったんだ。ころして。