No.791

忘れないと思っていたことを忘れる。忘れるはずはないのに忘れた。何かを。という記憶だけ残り人はどんどん寂しくなり、知らない人と結ばれる。人間のようだろう。ぼくもときどき人間のようだろう。見様見真似でここまできた。いまだにわからないことの多い。あなたはぼくを人間だという。ときどき好きだと伝えさえする。手も繋がないのにキスをすることがある。名前も知らないのに並んで寝ることがある。きみは人間。きみは人間だよ。言い聞かされるうちになんだか本当の気がしてくる。もしぼくがあなたの信じるものでなくても、あなたは平気でぼくを呼ぶ。ぼくがあなたを傷つけてもぼくは傷つかないんだ。そう打ち明けた時も笑っていて、あるはずのない心臓がコートの下で脈を打った。