no.170

夜の君、子どもか動物に諭そうとでもするみたいに優しいから言いたかったこと何も言えなくなる。雨上がりの道路を車が走って行くよ。毛布にくるまってその音を数える。いつかの僕らが逃避行しているんだ、この今も。つかまらないで。怯えながらも自由に。意地悪された数だけを数えようとするんだけどうまく抽出できないでいろんな記憶が引っ張り出されてくる。手に入れようとあがいているうちは何もかもが空っぽだった。手のひらで包んだ容器の中であの日の太陽がまるで小さな蝋燭みたいに震えて、やがて僕は祈るようになる。君が傷つきませんように。僕の痛み以外で。君が生きていけませんように。僕のいない世界で。夢で。現実で。どこででも。ひとりで。

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