no.169

僕は興味がない。君がどこの誰でどんな顔でどんな声でどんな筆跡なのかについて。何を嫌って何を好んで何のために生きてきたのかだとか。許せるものは何で許せないことはどこまでで何年の隔たりがあるのか。僕たちはまだ誰も正しくとらえられない。残された時間の長さ。終わりを目前にして何を思うのか。いつも何者かであるふりをしてからっぽだった。顔を上げると星座が綺麗に決まっているから俯いて歩いた。そうすれば誰にも見られなくて済むでしょう。自転車が追い越して行く。それはいつかの僕たちだった。呂律が回らなくなったからもう何も言わない。伝わらないなら温度だけあげる。心臓をあげる。魂をあげる。誰も描けない光景、誰も書けない小説、誰も歌えない歌、誰も撮れない一枚の写真。残されることを乞わない。知らない誰かの一瞥のために息を吸う、あと一度だけ吐く。追いかけないから振り返らないで。道はほんのり発光を始めた。祈っている。願っている。捧げたいほどに。君にとって最後の一日が冷たいところじゃありませんように。呼吸と未来に因果はない。それでも深呼吸して肺に棘を溜めていく。君の中に一滴の毒も残りませんように。名前も知らないまま。顔も知らないまま。祈っている。願っている。捧げたいほどに。

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