小説『共存実験』

ふたりで向かい合って食事をしている。ぼくは野菜を、あなたは肉を食べている。使う食器だけ同じで、食べ方や立てる音はまるで違う。だけどぼくたちは会話をしている。たまに笑い合う。

実験なのだろうとある人は言う。共存できるかどうかの実験をしているのだろうと。ぼくは感じる。どうだっていい。この生活を実験と言う人のことも、その人に反論する自称代弁者たちのことも、実際これが実験であるのかどうかも。

あなたは皿を空にするとぼくが食べているものを見る。そんなに美味いのか。美味いというより、ただ食べてる。と答える。あなたは一枚つまみ上げると下から食らいついた。ふん、悪くない。言葉では言うが、顔はそうは言ってない。まったく、正直なんだから。

ところでおまえは美味いのか。

あなたは問う。それほど知りたがっていない顔で。あなたの、空だと思った皿には薄っすらと血の色が残っている。どうだろうそれは。どうだろうね。ぼくはぼくを食べたことがないから分からないや。あなたは笑う。それはそうだ。おれにもおれが美味いかどうかは分からない。確かめることはできるが何の得にもならん。

ぼくはだいぶ遅れて皿のものを完食すると、それぞれ別のものをのせていた二枚の皿を重ね合わせる。真上から見るとひとつの円になっており、ぼくはこれを見るためにあなたと食事をするんだった。

日暮れに狩りへ行く。いってらっしゃい。おまえはどうする?寝てる。そうか、狩りから帰った時に間違えておまえを食べても?間違いではないよ、べつに仕方がないけど、痛くしないで。だったら深く眠るこった。夢を見ないほど深く。

体力の温存だと断って、あなたはぼくの膝で眠る。狩りが成功するといいと囁きながら、ぼくは、幼く見えるその無防備な寝顔を見下ろしている。