ひとつのモチーフを繰り返して良い。あなたはたくさんを抱えることができない。別の星では無数の腕があったが、それではなにが大切か分からないというので今の形になったのだ。ずっと前から人間であったようで、この先も人間であるように思っているだろう。空が昼と夜で切り替わるとき、まれに赤く輝く。そういうふうに、あなた気づくんだ。人間でないこともある、と。鍵のかかった窓辺に透明のグラスを置き、水を注ぐ。景色や通行人を歪めて笑った。歪んでなおあなたを惹きつけるものがあった。ぼくは宿っていたのだよ。色を変える樹々に、歩行者の影の中に、往来を眺めている、だけど決して出て行こうとしない、あなたの瞳にだって。伝わってこないものはなかった。証明のためぼくがあなたへそう告白しても、馬鹿なことをと、毎分毎秒生まれ変わっているあなたは言うかも知れない。なぜそんな眼差しを向けるのかと問われて、ぼくは答える。あなたが自分の儚さに気づかないからだ。車輪に轢かれそうになりながら道端に咲くちいさな花や、母親に抱えられて病院へ向かう子どもを見るときも同じ目をしている。同じなのだ。短いのだ。儚いのだ。聞いたあなたは腑に落ちたと言い、しばらく黙っている。どうしたの。儚いものたちにとって沈黙ほど贅沢なものはないので。ぼくはあなたのそういうところが好きなんだ。百年前にもこうやって、グラスの中から眺めていたよ。