No.779

煙草の匂いが薄くなるのを待ち外に出る。あたりが明るくていま朝なのか夕なのかわからない。まっくらなら答えは一つなのに。(教えてくれないんだ)。海水がテトラポットを宥めている。伸ばした前髪が腫れた瞼を覆ってくれる。連絡先を消そうとして、そう、何度も消そうとして消せなかった。だけど消えるんだ。記憶から消さなくても、あなたきっと消えるんだ。一日のうちに何度も奇跡は起こるけど、矛盾がいくつも起こるんだ。それでもバランスは崩れず、朝が来て、夜が来て、人を疑い、疑うことに飽きてまた出会って、初めてのように恋に落ちるよ。消えゆく二人は最愛のように同じ夢を見るよ。どこにも溶け切らず、肌に宿った光の匂いと。果たされなかった祝福と。