no.164

人を捨てることには慣れているんだと、まるで自分が捨てられたみたいな目をして君は言うんだね。色が変わる瞬間はいつまでも切ない。憧れの女の子が男の子を産んでいたこと。知らなかった。壊れた時計が直っていたこと。知らなかった。山の頂に月が隠れたこと。知らなかった。僕の知らないところで世界は平気で不穏だし幸福。何不自由なく過不足なく円になる。きっと僕でない誰が欠けてもそうなんだろうけど、それでも。握った手が、手を、強く信じたために失った、ともしび、消える、何もかもを置き去りにすることをためらわないまま。月の下で音楽もないまま踊る、君を産んだかも知れなかった。あの時踏み出したなら。あの時視線を逸らさなければ。断ち切ったすべて風によって戻される、浅い眠りの果ての柔らかな光の中、君を呼んで良いの。僕を呼んで良いの。

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