No.765

夜は怖くないのに
朝がきて光に包まれると
ぼくにも輪郭ができ怯えてしまう
今日もまた影を引きずって歩くんだ

満員電車に揺られながら
何が怖いんだろうと問いかける
質問者も回答者も自分なので答えは無い
車両が大きく傾いて窓の外が夏だけになった

やりたいことも望みもないけど
それを隠して生きているだけじゃないか
これは一つの仮説
だから輪郭や影が怖いんだ嘘が見破られる

誰にも届かない言葉を
吐き続けていられるほど強くなくても
誰にも届かないとわかっている言葉を
吐かずにいられるほど我慢強くもない

結局吐き出すしかない
喉を通さない文字という文字を
誰の心臓も撃ち抜かない思いという思いを
今日もまた透明のまま目覚める

窓の外に流れる青色に別の仮説を描く
ぼくが生きることをやめられないのと同様
ぼくが言葉や文字をやめられないのは
ちゃんと誰かに届いているからではないか

寄り添っていても抵抗がなく
姿がないからあるがままの姿でいられて
時にはこころを垂直に貫く光のような
ぼくが知らずにそうされたように

車両の傾きがゼロに戻り
窓の外に人工物が戻ってくる
ぼくが見ていた夢と現のさらに先
この星で会いたい人に出会えそうな気がした