No.755

ぼくらずっと自由だったんだ。水はアクリルの向こうからちゃんと流れていた。そうじゃないなら良いのにな。そうじゃないなら救われるのにな。iPadのなかでペンギンが卵を受け渡し、屋根の上にはオーロラが垂れている。神さまがいることに気づいたのは大人になってからだ。いないと思ってた。ずっと。どこにも。ぜったい。夜中まで鳴いている蝉の声で眠れなくて、冷蔵庫にならんだ白桃からひとつを取ってかじった。左。あまい。喉の渇きは善悪を曖昧にする。あまい、つめたい、ああ、ひとりじゃない。汁をつけた手のまま布団に潜り込む。夢のなかであなたがぼくを探している。どうしたの、迷ってしまったの。起こしたくなくて、迷っていて欲しくて、大切な人の口から呪文のように流れ出すぼくの名前を聞かされている三時。ここにいるのに。ばかだなあ。甘い汁を頸動脈に塗っていく。からだの熱いところに塗っていく。ばかはどっちだ。明日になればあなたは気づく。ぼくがとんでもない抜け駆けをしていたことを。この夏さいしょの喧嘩を始めなければならないことを。