小説『賭け』

読み切りBL。同級生との再会。チャンスを活かせるか。みたいなの。短くてすぐ終わる。

おれは今、賭けをしている。

恐れるものが無かったんじゃない。単純に知らなかったんだ。つまりそれは恐れるものが無かったってことになるんだけど、こんな、どっちにも転べそうな男、見たことない。

そう思いながらおれは向かいの席で酔っ払ってる元同級生を見つめる。
漬け込んで許されるようで、今間違えたら永遠にポシャるという恐怖もあって。

だけど、かわいい。おれが母猫なら胎盤にくるんでもう一度お腹に戻してあげたいなあ。誰にも見せたくなくて触らせたくないってなると殺すしかないみたいになるけど、どっちかって言うとちゃんと生かしたくて、生きてて欲しくて。

という感じの酔っ払いかたで、おれもたぶんなかなかに酔っているな。

「おい、なにをみている?」
「いや、よく酔っているなあと思って」
「わっるいかお。まじでびびる」
「おまえ、酔った時の記憶って残るほう?」
「んー?」
「どっち」

賭けだった。

フライドポテトで玉結びをつくろうとして何度も失敗してたのが、ついに成功したのを目の当たりにする。おお。

「忘れる」。

結び目からなかなか視線を上げられなかった。
おまえはそのまま高く持ち上げて、釣り餌にかかる魚のように食らいつく。
視線はおれから逸らさないまま。

「忘れる。も一度言おうか?」
「忘れるんだな?」
「うん」
「じゃあ、じゃあ、」

今晩だけでも。
一夜だけでも。
ご慈悲トライ。

「でもその約束も、たぶん忘れる」。

(もしや酔っているのはおれだけ?)
元同級生は次の結び目にチャレンジする。

おれは今、賭けをしている。