No.743

白い花を踏まないよう用心して歩く
浜に出るや新しい海を叫んだ
砂礫にも波にも触って欲しいや
気持ちが鎮まるのを待って振り返ると

絵にしたい風景がそこにあった
絶対にできなくてせめて焼き付けた
あなたはぼくを追いかけてここまで来た
麦わら帽子に降り注ぐ緑をかぶって

この海が背景になりますように
顔を上げたあなたがぼくを見るときに
忘れられない一枚になりますように
視線が合うと言葉はもうないな

吸い込める酸素がある
じゅうぶんな水と光がある
あなたがいて足りないものは消えた
ぼくは気づかされる

行き交う暗号の中を逆らって歩いていたこと
握った手が離れないよう乱暴にしたこと
生き甲斐は発見するものではなくもたらされた
こんなぼくをあなたは欲しがってくれた

思いがけない終わりというご褒美
逃避行の果てで神様に拾われる
交わした言葉はすべて翻訳だったんだ
この景色につながっていたんだ

ぼくはあなたの名前を忘れた
あなたもぼくの名前を忘れた
つながらなくても平気なほどに平和だから
どちらも子どもになってゼリーみたいな海に飛び込む