No.734

御都合主義でいたい。なるべく視界を狭く、新しいものを取り入れず、憧れず、卑下せず、自分を大切にするほかないものと生きていくしかないんだ。自由になる少しのお金と、引き剝がしようのない愛(またの名を執着)、鏡とばかり向き合って、たまに追いかけ合う天体を見られればじゅうぶん。誰かの涙の結晶を傷口にはめ込んで、誰かの薄っぺらな言葉で目隠しをして、誰かの錆びついた過去で未来を塞いで、誰かの甘ったるい絶望で今日もぼくたちは清く美しく生きていこう。汚れた街を闊歩して、汚されもしない領域のために声を上げる。ぼくの発信はとうの昔に発信されたもので、みんなが何かのレプリカなんだ。まっすぐな水平線を眺めていたら、輪郭から血が滲んできた。カミソリの切り口によく似ている。きれいだ。始まりを求めすぎたあまり、始まっていた終わりにも気づけない。互いの対象を帰結するに、ぼくたちあまりにも脆すぎるよ。手ぶらでも死はここにある、影のようについて回る。ぼくたちは見せつけ合う、それでも今は生きているってことを。死んでないってだけじゃないってことを。個々の意思なんか関係ない、顔の見えないあの人の采配と気まぐれは、凡人の思い描く御都合主義さらにその一段上を行く。

『神様の失恋』