小説『ほしのこども』

ある朝、卵を割ったら星が出て
一緒に暮らすことになった
レタスは気に入ったようだ
でも人参はきらい

人間とそんなに変わらないのかな
ぼくは星に関する記録と観察を始めた

朝は苦手
言葉はつたない
くすぐるとよく笑う
満腹になるとお昼寝をする

一年二年三年が過ぎ
星はすっかり人の形になった
感情が高ぶるとほんのり発光するので
怒ったり悲しんだりしてはいけないと教えた

星はぼくによく懐いていた
ぼくの言うことはよく聞いてくれた
ある時ぼくは人を傷つけてしまい
その人のためにたくさんのお金が必要になった

いろいろ迷ったあげく星で稼ぐことにした
感情を高ぶらせて発光するんだ
めずらしいからみんな楽しんでくれるはず
それならと星はまたよく笑うようになった

それからさらに一年が経って
ある人が星を買い取りたいと言ってきた
どうしてもできないと言うと
いともあっさりと引き下がってくれたが

嫌な予感がして星と逃げることを決めた
星は最初ぼくの手を引いていたけど
それだと発光してしまうので手を放した
正直とても心細かった

すっかり安心して海沿いを歩いていた時
近くで銃声が鳴った
それはぼくを狙うもので肩を負傷する
流れ出たぼくの血を見て星の体が発光した

おさえるんだ
ぼくはだいじょうぶ
ここで目立ってはいけない
おまえは今は冷静になって

何度も言い聞かせるうちに
星の体はどんどん薄くなっていった
やがて暗闇に同化して
ぼくも意識を手放した

まぶたを開けた時
ぼくは空の上にいた
星の名前を呼んで手を伸ばす
もう肩は痛まない

星が手を取って語りかける
だいじょうぶだよ
音ではない何かが
体の中へ流れ込んで満たされる

どうして鶏の卵になんか入っていたの?
ぼくは今さらながらの質問をぶつけた
星が出てきたら面白いかなあと思って
そんなことがあったら面白いかなあと思って

後から知ったところによると
ただの失敗だったようだ
うっかりさんだなあと星をからかう
そんなことはないと主張しながら星は光る

今ぼくたちは感情をどうすることもない
眠りたければ眠る
怒りたければ怒り
泣きたければ大声で泣く

笑いたければ笑い
食べたければ食べ
愛したければ愛をして
元いた場所を思い出すこともない

ここじゃ光らないほうが目立つんだ
どうしたのって心配をされる
たまにはそんな日もあるけれど
ぼくたちを遮っていた膜はもう見当たらない