No.730

たぶんかけがえのない早朝
トラックだけが追い越していく
歩道の真ん中に三毛猫が硬直していた
廃棄されたコンビニのおにぎりみたいに

ぼくは知らない
きみが生きたことをぼくは知らない
きみも知らない
ぼくが生きていくことをきみは知らない

しゃがんで写真を撮ってしまうこと
それじゃなんの弔いにもならないこと
大事にしようと思うんだ
抱えて行ったりできないんだ

靴紐がほどけた、と思ったら
みるみるいっぴきの蝶々になった
絵の具みたいに正しい水色へ溶けて
それはもう戻ってこない

大事にする
ねえ大事にするよ
ときどきひらいて
ときどきとじて

呼吸に似せて
孤独に寄せて
硬直を避けて
孤独を避けて

感じたことを忘れないでおくね
忘れてもまた約束をするね
言葉が尽きずさみしいぼくは
部屋に戻るやきみの隣に潜り込んだ

ねぼすけさん、ねぼすけさん

ぼくらの街は死でいっぱいだったよ
今日は靴紐もなくしてしまったよ
だけど美しかった
きみの魂ってやわらかだね