手に入れてはいけなかったのかもしれない。僕には治療できない傷を見ながら途方にくれる。
霧の晴れた朝、やがて光が追いつくだろう。あなたは白い林檎をかじる。芯や種まで飲み下して、おヘソから樹が生えるかもと笑っている。そうしている間にも手のひらの下から血は流れて、流れて、ついに流れるものもなくなったとき、星がひとつ落ちたんだ。
覚えていてなんかやらない。教えてくれたもの。教えてくれたこと。魔法を使ってあげたい人、そんな人は他にいないんだ。
朝が来る。夜が来る。真夜中がきて、また朝が来る。それを僕は繰り返すだろう。繰り返すことができてしまうだろう。魔法が使えなくても。魔法が使えなくても。
乾いた苗床から若葉をすくいあげ、潤いを求めて歩き出した。誰も知らない顔で。誰も知らない名前になって。見つけられないということ。呼べないということ。もしこの先どこかですれ違っても、お互いにお互いが気づくことはないんだ。
目覚める度に僕は自分に言い聞かせる。
無傷の命があなたの欲しがったものではないはず。
眠る前に僕は自分に言い聞かせる。
間違えないことだけが正しさではないはず。
みすみす終わりを早めたりしない。置いていけなかった若葉が、また種子に戻るのを見届けるため。その日の最初の一滴。僕のする不器用な解釈が、もう孤独じゃない葉脈で鼓動するから。