No.724

誰かにとってはじめての朝に
アリバイを見つけらないまま目覚めた
嘘つきと同居を始めて早三年
伝えたりない罵声が遊泳している

人のいない街を好きだ
こんなふうに思わなければマシなのに
落とし穴を探して歩いた
自分の代わりに自分を傷つけてくれるものを

公園の隅っこで猫が寄り添う
橙と黒だ
どこででも生きて死ねる姿で彼らは言う
思い上がるな隅っこはそちらだぞ、と

玄関のドアをあけて帰宅しても
出かける途中だったかもと錯覚する
あなたがまだ目覚めていないので
頭の中では置き去りにできるのに

スニーカーを脱いでただいまと言う
透明な糸で巻き取られていて
寝入る傍に立ち尽くした
猫よりずっとぼくに似た生き物を

なんでちゃんと殺せないんだろう、
なんでちゃんと生きられないんだろう、

あなたのことも
ぼくのこともだ

もうこぼれないと諦めていた涙がこぼれて
悲しいせいじゃないと言い訳を用意する
悲しいせいでも寂しいわけでもない
虚しい、ただただぼくが、無力なんだ

目を開けたあなたがぼくを見ていた

光が、邪魔だなぁ
「行けなかった、どこへも」
顔に、書いてある
「早くあなたをひとりにしてやりたいのに」

貫通することのない長い針を
憎しみさえ忘れて心臓に突き立てる
そんなイメージで言葉を放った
あなたは不遜に笑って目を閉じるけど
ずっと見られている感じが消えない

べつに構わないけど朝はやめろ朝は
おまえにはおれを殺す
チャンスなんかこの先いくらでもあるから
朝はいろいろと参るんだ

(は、ふざけやがって。)

感想が重なり合い不覚にも笑ってしまう
後悔したいのにできはしなくて
伸ばされた腕の中に倒れ込んだ
ぼくは救いようのないあなたの同居人だ