No.711

だいじょうぶという言葉には責任が生じる気がして、あいしているとばかりささやいた。

それはぼくのものだから。ぼくの心をひらいて見せびらかすくらいなら、きっと誰も傷つけないから。

頼ることを知らない生き物、こちらが薬を塗ろうとすると気付いてしまう、傷を負っていたことに、そしたら傷はやがて熱くなって、罪のない存在に長引く痛みを与えるだろう。

他から見たら手当てせずにいられないほど重度のものだと、あなたを深刻にさせるかもしれない。

踏み込んで前を向かせるが良いんだろうか。そうは思えない。そうは、思わない。

正解を刻んだ金魚を土壌から掘り起こしたくて、朝が来るたびなるべく凶悪な立葵を探すんだけど、探し当てることができない。

怖いものや悪い思い出をともなうものは視界に入らないしかけになってるんだ、ぼくの目は。

何も見えない人になりたくなくて慎重に生きても、きのう見えてたものが見えない。ないはずのものにぶつかって、ああ見えていないだけだったと頭を抱える。

ぜんぶ嫌いになりたくない、なにもかもに怯えたくない、それでも体は自衛を優先させて、ぼくの世界からひとつずつ色を消してしまう。

だいじょうぶでいいよ。

あなたの声も透明になりそうで、だから絶対に聞き逃さない。

きみが私にかける言葉を、だいじょうぶ、に変えてたっていいよ。

言わせてしまうなんて。それを、あなたに、言わせてしまうなんて。

情けなくて隠れたい。ふがいなくて張り裂けたい。だけどあなたが何度も促してくれるので、とうとうぼくはとっておきの禁句を口にする。

ずっと生かしたかった。糧になりたかった。漂いたくて、気づいて欲しくて、体の中で生成を続けていた。

ぼくの内側で濃厚な蜜がうごめていて、あなたはそれを吸い出してくれる。そしてたまに口へ運んでくれる。ひどい味。魂だよ。まさか。めぐっているよ。

強い味だ。
忘れられない味だ。
ぼくの視界が一気に拓けて、あなたの胎内にまた宿ることを許される。