No.700

なにもかもが違って見えた。比喩なんだけど比喩じゃなくて、だんだん呼吸になっていくのがわかった。あなたは遠い人だった。ぼくが手をのばしたくらいでは到底とどかないような。なごりで今でも手をのばす。勘違いしたあなたが「何が欲しい」と拗ねる。正直になろうか偽ろうか、迷ったあげくに嘘をついた。べつに欲しくないよ。種明かしまでの至福な時間。ぼくは自分が思っていたより性格が悪いようだ。今がどんどん呼吸になって、やがて一体化しちゃうような、そうしたらこの至福も消えてなくなるんだろうか。愛しているのに愛したい。愛されているのに愛されたい。足りたときは終わりなんだろう。いつか来るのかもしれない。でも今じゃない。それは、今じゃない。呼吸に向かう途中、平衡という錯覚、少し息苦しい。庭に咲くクレマチスを切り落とせない、臆病な手であなたをつかんだ。