no.116

置いて行かれたと気づくのに何年もかかった。その間に僕は大人になったしそれなりの罪と罰も知った。神様は今も鎖をつけられたまま紙袋に入れられてクローゼットの奥のほう。願えば願うほど遠ざかるなんてどうかしてる。発狂したひとを書いた本を読んだ。そこには何の違和感もなく、ただただ好きなだけだったんだ。皮に触れるたびその下にあるものに思いをはせる。嗅覚の無いことは本当に幸運だった。隣人の間ではそろそろ話題に上る頃だろう。いま誰に会いたいかという質問は僕を困らせる。最後の質問のときにも今と同じように僕は困るだろう。そのことは質問者の日常に少し影を落とす。やがて消えていくんだけれど。ひとつひとつ抱えながら生きていけない。落とす。拾う。それが繰り返されるということ。それに馴染めるかということ。知らない言語が到達し続ける。拒めば冷徹になる。初めてお互いに分かり合えたとしても僕たちはひとつにならない。こんなにたくさんの美しいものが溢れた朝も、その日の夜も。愛を語るひとは縋るものをさがしていた。愛を知らないひとがまだどこかにいないか、それだけを考えて生きていた。ある人にとってはそれが凶器になるとも知らないで。何年も何百年も眠った後にまた目を開ける気になれば。また、また。ごきげんよう、ごきげんよう。どうかお元気で、よろしく。さようなら。はじめまして。ありがとう。では、また。