no.115

いくつになっても誰も好きになれない自分に怯えながら眠った翌朝は隣室の叫びで目をさます。おやすみ設定をしていたエアコンが約束通り切れていただけなのに何かに裏切られた気分になる。朝日が差し込んで、きれいだな、と思うより先に裾にはびこった黴が目に入る。何も美しいことなんてない一日が始まりかけている。終わる前から終わりがわかると思ってしまう。そしてそのとおりになる。そう思うから。願いだと勘違いされて。べたつくリモコンを操作してテレビのチャンネルを切り替える。ましてやそこに答えなど見当たらない。真新しい入道雲を見ていると、自分が、何か、とてつもなく間違った方向に向かっていると思う。あの頃は良かった、だとか。同級生からの招待状に欠席の返事を送る。ハガキを入れる前と入れた後でポストの赤みが増したのはたぶん気のせい。ちいさい子どもを守るために車が道を外れる。対向車線をやってきた車とぶつかってバンパーが吹っ飛ぶ。それが民家の屋根についているアンテナを折る。野良犬が反応して飛び上がる。新しくできたコンビニエンスストアの新しいバイトが初々しい笑顔を見せる。それがいつか本心じゃなくなる日を待とう。みんなのかわいい夢とか健気な努力がはやく裏切られると良いのに。はやくお話しようよ。危なくないままで。危なくなりうることを。角の喫茶店が改装されていた。手書きのメニューボードに得体の知れない生き物の絵。スパイへの暗号。僕は何も解読できない、何も。暗号でないものでさえも。輪っかは丸いから入口がわからない。でも出口だってわからないだろうということで気休めとする。誰も出られないさ。足元から吹いた風に舞い上がるチラシにすべての結末は書いてある。懐かしい入道雲より遠くへ飛んでってそれはもう掴めない。あの入道雲はずっとあのまま待っていたのかな。消えずに見ていたのかな。遠慮なくいろんなものを吸い上げてくれたね。満足するまで噛み砕いたら午後のゲリラ雷雨にでもしたら。