ぼくは若くない
一般的には
ぼくはおじいちゃんである
気持ちの上で
いつも今日が最後だと思ってる
陽だまりの中で
猫が寝転がっている
きっと泣かないでいてくれる
怖くてたまらない夜もあった
眠るように死ねるとは限らない
ひどく苦しんで死ぬのかも
言いたいことを言わずに後悔しながら
エンドロールを何よりも楽しみにする
そんな子どもだった
はやく現実に戻りたい
気もそぞろに映画館を後にする
そんな雰囲気の中でじっと座って
強制的に明るくなるまでそこにいる
きょうもぼくが一等賞だ
だけどその日はきみがいた
学校は?
行っていない
なぜ?
明日死ぬ気がしたので
へえ
ぼくはきみにオレンジジュースを
注文しようとするが不満を示され
もしかしてコーヒー?
そっぽを向いたまま
こくりと頷く
じゃあセーフティーネットとして
ぼくがオレンジジュースで
いろいろな話をする
長いお休み
スイカ
宝石
エプロン
聞き役に徹していると
そろそろ話すこともなくなったか
あなたは、とぼくに向けられる
ぼくより死に近いのに幸せそうですね
ずるいな。
ぽつんとこぼしたその一言が
きみがずっと言いたかったことだろう
そのあとはあっけらかんと
ごちそうさまをして別れる
そんなでぼくはすこし機嫌がいい
いくつになっても年下に
ずるいと言わせられる大人でありたい
あれは初めてずる休みした日のぼくだ
今日初めて会ったぼくのことを
ずっとずっと覚えていて
きみがやがてぼくになるんだ
砂糖を入れないコーヒーは苦かったなあ