No.695

ぼくは若くない
一般的には
ぼくはおじいちゃんである
気持ちの上で

いつも今日が最後だと思ってる
陽だまりの中で
猫が寝転がっている
きっと泣かないでいてくれる

怖くてたまらない夜もあった
眠るように死ねるとは限らない
ひどく苦しんで死ぬのかも
言いたいことを言わずに後悔しながら

エンドロールを何よりも楽しみにする
そんな子どもだった
はやく現実に戻りたい
気もそぞろに映画館を後にする

そんな雰囲気の中でじっと座って
強制的に明るくなるまでそこにいる
きょうもぼくが一等賞だ
だけどその日はきみがいた

学校は?
行っていない
なぜ?
明日死ぬ気がしたので

へえ
ぼくはきみにオレンジジュースを
注文しようとするが不満を示され
もしかしてコーヒー?

そっぽを向いたまま
こくりと頷く
じゃあセーフティーネットとして
ぼくがオレンジジュースで

いろいろな話をする
長いお休み
スイカ
宝石
エプロン

聞き役に徹していると
そろそろ話すこともなくなったか
あなたは、とぼくに向けられる
ぼくより死に近いのに幸せそうですね

ずるいな。

ぽつんとこぼしたその一言が
きみがずっと言いたかったことだろう
そのあとはあっけらかんと
ごちそうさまをして別れる

そんなでぼくはすこし機嫌がいい
いくつになっても年下に
ずるいと言わせられる大人でありたい
あれは初めてずる休みした日のぼくだ

今日初めて会ったぼくのことを
ずっとずっと覚えていて
きみがやがてぼくになるんだ
砂糖を入れないコーヒーは苦かったなあ