No.689

つい昨日だったことがもう百年前になったんだ。恋は事故で愛は覚悟だ。あほか。おまえと会わなけりゃ乗るはずもなかったオープンカーの助手席でそっぽを向いた。新しい港と街が見えるライン。ほんとうに相性いいの?相性、ばかげてる。万一そんなものがあったとしても、いいわけがあるか。後部座席からミモザが舞い上がった。初めての味は美味しくないけど不味くもない。煙草なんか吸っていいのかなあ、優等生が。口では言うけど取り上げはしない。茶化してくる横顔に向かって煙を吹きかけたつもりで噎せた。ぼくの好きな横顔がぼくをからかって笑うのでダッシュボードで火を消してやった。未成年を拉致していいんですかね、公僕が。口にして初めて圧倒的な解放が吹き付けてくる。初夏の海へ向かうんだ。通知表も、おつかいも、宿題も、ごみ出しも、留守番もそのまま置いてって。未来へは丁重に断りを入れて。風に吹かれて、青を捕まえに行く、記録しない記憶、社会のルールを守らない共犯者と、糾弾されても構わない秘密をつくりに行く。