No.677

信じてなかった
空に格子は嵌められないんだ
あなたを信じて良かったのだ
ほんとうを言われて嬉しかった

つむじに雨が落ちてきた
鼻先に頬に落ちて唇を流れる
あなたは傘を持つだろうか
シャツを乾かしながら考えた

忘れられないひとに
すこしだけ似ていた
そのことが僕にとって
毒か薬かはわからない

どんな言葉もあなたではなく
あのひとから発せられるかもしれない
どんなにぬくく安心できても
それはあのひとの錯覚かもしれない

そんな自分を僕は許せるだろうか
そんな僕にあなたはもったいないと
手放したり傷つけたりしないだろうか
天気のいい日に考えることが多い

暗い想像で貶めるんだ
世界が輝いて見えるときは
コントラストで罰するんだ
笑っていいなんて言われていない

双子のぬいぐるみがやって来て
うなだれた僕の前でおじぎする
あのひとはあなたの前から去ることを
ご自分で望まれてそのようにしました

どうやらこのウサギ
ビー玉の目をしながらものを言えるらしい
僕は缶コーヒーをあおりながら
違和感もいっしょに喉奥に流し込んだ

それに、と右が言いかけ
貴殿は、と左が言葉をつなぐ
それに貴殿はお気づきでしょう
何もかもが明るみに出ていること

コーヒーをぶちまけた先にあったのは
ちいさな灰色の双子ではなく
僕へ会いに来たあなただった
清潔なシャツを汚してしまった

弁解できない僕を見てあなたは
困りながら笑うんだった
気づいていなかったんだね
空に格子は嵌められないんだ

毒でもなく薬でもない
他ならないあなただ
あのひとのことや僕のする暗い想像
すべて知って微笑むあなただ

笑えないことや許せないこと
拭い去っても拭い去れないもの
ひとつずつ話していこうと思う
一瞬の気休めは雨にまかせて