no.107

いつの間にか眠りに落ちていて、ふと目を覚ましたら平日の午後、窓から吹き込む風と扇風機の発する風とがぶつかり合うところで呼吸がかすかに不自由に覚える境界、淡い光の中で読んだものがどれだけ生きる糧になるか考えたことがあるか。似ているところを探して見つけ出せた数だけ命が伸びるような勝手なルールの中で、年老いる前にここから奪われていくひとに寄せられる嘆きを、それに加えて隠しきれない期待の眼差しを、羨んだとしても絶対に口にできないときの不自由さが分かるか。裏切る自覚もないまま裏切る。ひとはどこまでも置いてけぼりにされる。土が削れる音。次の花の咲く音。歩み寄られることを拒み続けて望み通り静かになった部屋。空中を浮遊する虹色の金魚が幻であるとまだ認めたくないのにもう拭いきれない敗北感は血に似ているね。止めたい時に止められない。止めなくても死なない。順番が決まっているんだろう。どこかにノートがあるんだろう。ぼくが本当は綺麗なものを好きだと言っても笑わないで。だからきみを忘れなかったと押し付けがましく主張したって。笑わないで。もし、笑ったとしても、ときどき思い出してその時だけでも信じて。
ゆっくりのたうつ尾びれの影まで虹色だ。