No.664

夜明けが追いかけてくる
ロープのような飛行機雲
どこまでもぼくを追いかけてくる
閉ざされた門の前に花が散ってる

あなたのいない春をいまだ知らない
生き物は必ず死ぬんだそうだ
それが命の条件だそうだ
時間が時間を追い越すこともあるんだ

記憶は丁寧にぬりかえられて
辻褄の合わないことなんてないよ
不安の居場所は消されてしまった
それで今こんなにも不安なんだ

ほら、夜明けが迫ってくる
もう駄目かも知れない
希望のサイレンを鳴らしながら
ぼくから孤独を取り上げながら

手紙を書くよ
その約束を破った
今度は破られる番になる
だって宛先がないんだ、しかたがない

迷子の手紙はどうなるだろう
そうしていつか配達人にも見捨てられて
漂流するうち太い流れにとらわれるだろう
仰いだ妊婦が宇宙の涙よと指差すだろう

また手のひらに落ちてくる
ぼくが求めたばっかりに
すべてを忘れたあなただけれど
すべてを覚えているぼくのこと、笑って。