No.663

いつだってこぼれていた
切り取り線をなぞるだけの指先から
夜明けとともに去った星のひかり
だいすきな横顔は鴇色に染まって

到底理解ができないと思った
朝に焦がれる人がいることなんか
新たな空気に溶かし込まれて
飲み残しの沈殿物に眠るだけ

花と蔦で編んだ仮面をつけて
ぼくたちは俯き加減に散歩した
言葉を交わさない約束で
またねと言わない約束で

知ることはない
これがどれくらいの奇跡かなんて
感じることがあるだけ
もしかすると神様かもしれないと

もし完全に終わったとしても
誰のためになるだろう
何のためになるだろう
いいや、誰の、何のためにもならない。

だけどそのことがぼくたちを強くした
疑う必要もないほどたしかに
暗号は解かれることがない
その確信は千日ぶりに安眠を運ぶ

まだ死ねないからうたたねをしたんだ
降り注ぐ陽に花と蔦は歩き出し
素顔同士で初めて見つめ合う
はにかむきみはぼくのよく知る誰かだった