No.648

あまい。甘い、乾いた匂いのする棚から一枚のレースを引っ張り出して、ごっこあそびに使おうと思う。無限の明日の滅亡ごっこ。ぼくらは罪悪感にさいなまれる子羊で、だけど一番の願いを知っていて背かなかった。周囲を傷つけることに鈍感で、自分たちが壊されそうになることに敏感で。てんごく。天国へつながるアパートの踊り場。蜜蜂に集めさせた他人の不幸を、孤独な少女がティースプーンで舌へのせている。回数を重ねて血がかよう。綺麗なことと残酷なことは紙一重で、認めたくないひとから燃え上がっていった。雪の日のマッチみたいに。つめたい。冷たいドアを開けることができなくて、妄想は砂場の砂にからまっていた。そと。外は、銃弾のような雨だね。憎む相手もいなくなって、ひたすら地面に打ち付けるだけ。逃げていく陽だまり。なみだ。溶け合う地上の涙。あの棚から持ち出した、たった一枚のレースじゃすくえない。こぼれ落ちて嫌な思いをするだけ。だから離さない。だから誰にも渡さない。ぼくらのごっこあそびにしか使えない。正常なら、落ちてこぼれた。正しさを説くひとのいない、ここでしかぼくら生きたくないんだ。