No.632

なにが。ぼくに何ができる。崩れてく砂のお城をながめながら、考えてた。だれのために。誰のために。寄せて返す波を恨むくらいなら。解読されちゃいそうな暗号に舌打ちして、もう何度目のシャッフルだろう。切り開かれる傷口のむこう、縫い閉じられてく光を見た。体はただの入れ物になって、痛いも悲しいもどこにもないんだ。あなたに知ってほしい。ぼくは平気で、ぼくは穏やかで、ぼくは屑よりも細かくなって夜空に浮かぶこと、できるんだよ。血からほどかれて、骨から削がれて、花にも鳥にもなれるんだよ、って。満月、たとえば明日、あなたの中指が引き寄せるお皿の上、やがて口にする、他愛もない主食にだってなれるんだ。簡単にね。予感が重なり合い、淡い発光でしかない軌跡が、ゆっくりと明滅を始めた。繊細な感覚ばかりの世界は縫い閉じられて、まばゆい光のなかで、ぼくはあなたばかり呼んでいる。しあわせが染み込んで、絶望が淘汰される。その後に来る、圧倒的、静寂。何も。なにも、できない。