no.97

あとからわかったことがあまりにも多いから、あぶなかったんだなと思う。誤解したまま二度と会わなかったかもしれなかったことや可能性。自分に向けられた感情の意味を知らないままつまり自分以外による自分のことをなんにも知らないまま進んでいっていたかもしれないという可能性。と同時にそれは、今や、あのときが初めてでないという可能性、というか事実、認識されてこなかった、認識されようもなかった、そう事実。裏付けのない過去。記憶されなかった記憶。断片。踏みにじってきたもの。わざと受け止めなかったもの。弱さという言葉で片付けようとしていたことが何よりの弱さだったと認めたくないがために人を傷つけるのは世間が考えるより手っ取り早くて傷の浅く済む方法のひとつ。世間って言葉を使うとききみはいつもものすごく個人的なことを喋るよねってあなたが言うからそうなんだろう。右と左で温度の違う手。死に別れた双子みたいな光と影。直視するのが怖い。ただその一言をいえないで、あなたを見ている僕を、あなたが笑っている。ちゃんと綺麗に生きている。傷つけ合うかもしれない可能性を踏まえて。同じ命のまま生まれ変われる。見飽きたはずの景色が、いっそよそよそしいほど新しい。語り合う手前の、ただ投げかけるだけの言葉。返事を拾い損ねないよう耳はいつも澄ましておく。あなたの知っているの夜がぼくの夜と交差して、一縷の光とか垂れ落ちる。まだこの日を知らない少年のぼくに。敵に見立てる相手も持たないくせに殻を築くことに熱心だった、しなやかでない幼少の日々に。

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