花が降る、この世の花が、白に降る、星に降る、こどもの頃に。そう。あなたを夢だと疑わなかった。だって、ちっぽけな僕にとって、こんなに早くこんなに素敵なものがあらわれるはずはないんだ。不思議で、不気味で、不可解だった。この先どんなものを差し出さないといけないんだろう。生きていくのがやになるくらいさ。だけどあなたはそこにいて、ときどき笑いかけてくれさえした。転機が訪れたのはある雨の朝、僕は子どもでもなく大人でもなかったが、あなたはずっと大人だった。それなのに僕が優位に立ったんだ。ささやかれていたんだよ、取り上げられる前に壊してしまえ。失う前に奪ってしまえ。嫌われる前に傷つけてしまえ。捨てられる前に忘れてしまえ。その声が消せなかった。そして実行した。相変わらず春が来て夏が来て秋が来て冬が来てまた春が来る。それを七回繰り返した頃。僕はついにあなたに追いついて、いま、すべての色を目に映せるよ。こんな色をしていた。怖がらせてごめんな。これからは大切にする。あなたは自分が加害者のように言うけれど、嘘だ。あなたが僕を大切にしなかった日なんて、一日だってなかった。僕がそれを忘れたことなんて、一瞬も。ああ、花が降る。この世の花が。天国にばかりとじこめておけないで。白に降る。星に降る。やましい恋を、もうひけらかして良いんだって。おまえが生きている世界でよかった。そう笑うあなたの髪に、黙って俯く僕の肩に、降りしきる、ふりしきる、この世の花の、なんて鮮明。