No.625

夕陽、カラーセロハン、折り鶴、夢見心地、ドロップ、鍵盤、波、サイダーの泡、片足だけのローファー、黒猫の瞳、きれいなものを見つめていると、消えてしまいたくなるのはなぜ。調和のとれた景色の中に立つことを、まだ許されていないと思う。きみのとなりを許されていないと思うから。吸う息を半分にして、もう一息でいのちを半分こにして、文句なんて言わないで、卑屈なこと自分がよくわかってるんだ。ぼくのほうが優勢で、きみのほうが劣勢だとしても、ぼくはいつまでも恥じるだろう。いたたまれない、その衝動だけで踏み出してはいけない一歩をかんたんに踏み出してしまうだろう。見つめられたくない、ただ見つめていたい。視界にうつりたくない、ただうつしていたい。肉になっても、骨になっても、きみが誰かを愛して傷つけられるだけのその時間を、ぼくは何も感じない神さまみたいに守りたいんだ。これはきっとバグだから、ただしく修正されることだろう。きみは安心安全に、ぼくを忘れて生きていけるよ。報告します。生きてこられたよ。きみのおかげで。きみのせいで。ぼくは正常であり、異常なし。身体検査なんて不要なくらい、次こそまともにうまれてみたいな。命令をして。死んではいけないと。そうしたらぼくは初めてきみを裏切るだろう。バグは回復しなかった。きみの発明品は自我を持った。すばらしい、絶賛の嵐だ、きみは少し泣くかな、泣いてくれるのだといいのだけどな。命令をして。