No.624

あなたにふれるといつも思い出す。ぼくがほんとうはとても弱かったこと。あなたみたいな影がよぎる時にいつも思い出すんだ。ぼくがあなたに嫉妬していたこと。おなじ春なんて来ない。悲しいニュースが破り捨てられて、世界はいつも美しかった、誰の目にも平等にうつっていて、だから心がひしゃげていたんだ、あなたの吐き出す言葉の熱で。たとえばそれを毛糸にして、生まれて一度も休まない心臓を休ませてあげれば良い。たとえばそれをチョークにして、使う人のいない黒板で消えてなくなるまで削れば良い。たとえばそれを、たとえばそれを、ぼくからあなたへの贈り物だと言って、毒と名づけたため息を叩きつければ良かった。ああ、あの日、そうすればよかったんだ。傷つけないですんだのに。今ごろきっと忘れていたのに。残酷でなければただの夜に、優しくなれない光が降るんだ。誰もいない、誰もいない真夜中のなかだ。あなたの声だけが頼りだなんて、心もとなくて仕方ないや。