悪い夢の中にいるんだ
そう思い込んだ春の一日
曲がり角の奇跡は起きなかった
あどけない夜がひらいていく
書き換えられた辞書を手に
空っぽの主張を繰り返した
鳥にだってできるよ
飛ぶ生き物にだってそれはできるよ
瓶詰めの赤い花びら
光と文字が浮遊して
ぼくの顔をゆがんで映す
あなたの声をゆがませ届ける
あの子がいいな
この子になりたい
べつの生き物がいいな
今の自分じゃいやだな
星がゆっくりと点滅する
速度に合わせて歩き出す
支離滅裂な仮面は器用で
だけど誰からも発見されない
あの子に似てるな
あの子にも似てるな
ぼくの求めるものじゃない
あなたの探すひとじゃない
なりたい
目的語も言えないくせに
なりたい
四文字ばかりを繰り返した
とまってくれない時間が怖い
変わってゆけない自分が憎い
置いてけぼりのあの子が笑う
何をそんなに夢中でいるの?
ぼくは駆け出していた
逃げるためでもいい
血を回せ
心臓を眠らせるな
いくつもの街を過ぎ
花畑を踏み荒らし
銃撃戦をくぐり抜け
冷たい川を泳いで渡った
人の姿を失いボロボロで
何もかもが毛布に見えた
優しいかどうかなんてもういいや
声をかけてくれた者に尽くそうと思った
おそるおそる歩み寄る足音
顔を上げると目と目が合った
持たざるぼくと持ち過ぎたあなたの出会い
永い夜が性懲りもなくまたひらいていく