No.608

咲かないで
花にならないで
蕾をむしった
こんなんじゃ幸せになれない

愛のために涙を流すこと
強要されて首を横に振った
レッテルとバッシング
可哀想ねの同情に食べさせてもらった

青空から住宅街へ墜落する
おぞましい夢を見て飛び起きた
動揺したくないのに
助かりたいなんて思いたくもないのに

新世界の一日は唱和から始まる
声をそろえていると朗らかな気分で
悪くないかなと思い始めた頃
きみと出会った

おまえはまだ真っ当なの?
ぼくはここでは静かに暮らしたい
うそばかり
嘘じゃない本心だよ

脱出は三日目の夜
満月がてらてら光る夜だった
きみは星に祝福されて
ぼくはきみに祝福されて

目を覚ました
長い夢だった
おそらく幸せな夢だったろう
覚えていないことが何よりの証拠だ

きみが本当にいたのか
同じ世界にいたのかは
ぼくにだって分からない
きみにだって分からないんだろう

どうせ気配を消せやしないさ
会いに来たら目を覚まして迎えるよ
きみが迷子になったら手がかりとなるよう
ぼくはもう、白い蕾をむしったりしない。