【小説】『箱と毒』2

この話の続き。続かないと宣言したら続けたくなる病。当初からのキャラ崩壊と伏線回収気配なくグダグダに進む様子をお楽しみください。どうせメロメロになる(恒例)。もし今後続くとしても、伏線めいたもの、設定、キャラすべての呪縛から解き放たれてただ書きますね。

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▼15秒でわかるひどいあらすじ。

美形のモテ高校生のキラくん(17♂)は同じクラスのフツメンだけど黒目キラキラなシバちゃん(17♂)が好き。最近になってシバの魅力にみんなが気付き始めたように思われて(勘違い)、とりあえず癪に触るから、シバに対する悪い噂(シバ、家で小動物殺してるってよ)を流して不登校に追い込む。何食わぬ顔をしてシバの家に宿題を持っていく偽善者ぶりを遺憾なく発揮。罪悪感、薄。そんなある日のこと、シバが好きな子の存在を匂わせて…?!(作者)どきどき(回収できない)ハイスクールラブ★

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『箱と毒』2

どれだけ足しても致死量にならない。夢のような猛毒。間違いが起こらない。俺のものにしたくて、だけどできなくて、どんなに余っていても不足を感じる。矛盾ともどかしさ。この毒は、そんな毒。飲まされる方よりも使う方を苦しめる。

女子の買い物に付き合った時、化粧品に試供品があることを知った。これ自由に使っていいのよ。え、これ無料で使えんの?あはは、何それ。笑うとこ?俺おかしかった?おかしい、てか、キラくんなんか疎いよね。今風に見せかけて実は古風みたいな?は?俺めっちゃ敏感だけど?人の気持ちに対してとか。うそうそ。嘘じゃねえし。てか、ここにあるやつ全部無料で使えんの?女子ちょうお得じゃん。

あはは。

よく笑う、あの子は、まあ、かわいかった。俺に好きって言ってこなかったから。たぶん。気が楽だった。あ、言わないんだ、って思った。目が言ってんのに。全身が言ってるのに。言わないんじゃなくて、たぶん、言えない。そういうとこ、いいなって思った。悪意も善意もなくて。俺は勝手に共感してた。

わかるから。

恋愛にテスターがあるとしたら、今がそれなのかなって、二次方程式に頭を悩ませるシバちゃん見てて思う。今日も黒目がうるうるしてる。水分がいっぱいあるんだな。伏せ目がちなことが多いからかな。

「シバって、母親似?」。
「え、なに急に?」。
「あ、いや、その」。

俺がうろたえているとシバちゃんは怪訝そうだった表情をふいに崩してプハって笑う。

「どっちかって言うと父さん似かな?」。
「あ、そうなんだ」。

シバちゃんの父親に会ったことは、まだない。ないけど、黒目がウルウルしてる中年男性を想像して首をかしげる。上手く想像できないや。

「ねえ、学校来なくなったのなんで?」。

しらじらしく聞いてみる。犯罪者は犯罪現場に戻るけれど、俺はシバちゃんに真相を尋ねる。

「うーん、なんか、みんなが急によそよそしくなったっていうか。おれが勝手にそう感じてるだけかもしれないんだけど」。
「なんか、嫌なこと言われたり聞いたり、した?」。
「それは無い」。

ああ、よかった。バレてないや。
俺が、シバちゃんについての悪い噂を吹聴した、張本人だってこと。

「だから、おれの、思い込みってやつ」。
「……そっか」。
「あっ、でも、キラは変わらなかったかな!」。

シバちゃんはあわてて付け足した。
書きかけのノートから勢いよく上げた顔が間近にあってビックリした。俺が近づきすぎてたのか、シバちゃんが身を乗り出したせいか。思わず仰け反って「な、何が?」柄にもなくどもってしまう。どもる。俺が?へえ。いつも平然としてて余裕綽々で他人のペースに飲まれないことをモットーとして17年間生きてきたこの俺が。はい、この俺が。ですよ。革命。

「みんなの態度が冷たくなってから、てか、おれが勝手にそう感じ始めてからも、キラはそれまでと同じく接してくれて、」。
「接してくれて?」。
「嬉しかった、って言うか」。
「……あ、はい」。
「だから、おまえはモテんのかな、って」。

シバちゃんは自分の言葉に照れた風にフニャフニャ笑うと元の位置に姿勢を戻した。

モテてて良かった。

心底、これほど、自分が自分であることをめでたく感じたことはなかった。今まで女子の声とか呼び出されんとか正直うぜえって、思うこともあったし、思いの丈をぶつけて勝手に悦に入ってんじゃねえよって思うこともあったけど、本当にご馳走様でした。シバちゃんのこんな顔を見られるなら俺はこの先何年でもモテていたいしたくさん告白とかされて女の子泣かせていきたいなって思いました。正直。

「シバは好きな女子いないの?」。

うっかりそんな質問を漏らしてしまった。確かに頭では常々思ってたことだけど、まさか口に出すとは夢にも思わなかった。だから、シバちゃんが「えっ?」て驚いて少し顔を赤くした時に「はっ?」って声を上げてたし、気づいたらがっしりと両肩を掴んで今にも揺さぶらんとしていた。

「なに?いんの?!」。
「……ご、ごめん」。

つい謝っちゃうシバちゃん激かわ。天然かよ。
じゃなくて。

「何年何組?名前は?はあ?いつから?信じらんねえんだけど!」。
「……え、キラに言わなきゃダメ…?」。

頬っぺた赤らめウルウル上目遣いで「ダメ?」ごちです!じゃ、なくて。

一呼吸。
まず落ち着こう、俺、な?リアクションあやしいって。

「シバって、そういうの興味ないかと……」。
「あー、うん、自分でも不思議」。
「不思議とは?」。
「その人のこと見てたら、もう、いいかなってなる」。
「なに、もういいかなって、どういうこと?」。
「色んなことが、どうでも良くなるんだ。たとえば、明日の天気とか。試験の結果とか。運動音痴なこととか。進路のこととか。嫌な目にあっても、嫌なニュース聞いても、その人がいるなら、世界がチャラになるっていうか」。
「悔しいけどすごい分かる」。
「ほんとかよ?キラと共有できる感情あるとか思わなかった」。

シバちゃんはどんだけ俺を高みに置いときたいんだ。はあ尊い。

「……シバ、それって俺も知ってる子?」。

訊いてどうすんだろ。
考えてないけど、まあ、とりあえず?

「うーん、うん」。
「何それ、どっち?俺も知ってる?知らない?」。
「……キラも知ってる」。

その回答で俺の体と頭がスッと冴えた。
まったく知らない相手なら難しいけど、もし知ってる相手なら、なんとかなるかも。シバちゃんの恋が実らないよう、手回しできる、かも。

「ねえ、シバ」。
「え?」。
「俺、毎日宿題持ってくるよな?」。
「あ、うん、ありがとう」。
「授業の内容も教えてるよな?」。
「えっと、うん、でももし苦痛ならやめてくれてもい、」。
「じゃ、誰か教えて」。

強気で攻めるとシバちゃんの目が左右に揺れる。
やばい、かわいそう。困ってる。俺のせいで。ああ、かわいそう。かわいそうでかわいい。
なんで俺シバちゃんの存在に気づいちゃったんだろ。

「イニシャルで良い?」。
「は?いくない。フルネーム。当然」。

墓穴。墓穴。墓穴。
俺の頭の中で呪詛がエコーする。

「……ミヤジさん」。

俺の頭上で空爆が起こった。
ずるい。ずるい。ずるい。
シバちゃんにこんな顔させるって何様だ?
空爆は一瞬で、すぐに恐怖に似た寒気が押し寄せてきた。
ありえる、と思ってしまったから。
たとえば、学年一番のかわいい子とか、一個上の美人な先輩だとか、言うならまだ分かる。シバちゃん、女性経験なさそうだし、そういうわかりやすいほうに惹かれるってんなら、まだ分かる。だけど、ミヤジは、あかんやつ。まるで本気やないかーい。俺は少し錯乱している。

「ミヤジ。どんなとこが良いんだ?」。
「え、あー……」。
「なんかあんだろ。顔とか、声とか、性格とか。何もねえってことはねえよな?」。

つい詰問口調になってしまう。

「えっと……優しいとこ……?」。

優しいとこ?って、疑問系かわいいかよ。俺は真顔を保つのに必死だ。

「地味なだけじゃね?」。
「そうかな」。
「じゃさ、ミヤジが一回でもこの家に来ましたか?シバが休むようになってからいっぺんでも宿題運んだり授業遅れないよう計らってくれました?」。
「ないけど」。
「でしょ、じゃ俺のほうが優しい!」。

決めつけるように言い切ってから、しまったと思った。俺、動揺した。俺、取り乱した。
シバちゃんが、プハって、笑ってくれたから良いけど。
「なんか、キラって、王子様みたいなやつかと思ってたら、犬みてえ」。
「……いぬ」。
「嬉しそうになったり、なんかいきなりワタワタしたり。いろんな表情あるんだな。おれが持ってたキラのイメージと少し違う」。
「……それは悪かったな」。
「ううん、いいと思う」。

いいとおもう。
iitoomou.

つまり、シバちゃんは、俺の事が好き。と。なるほどー。

は、無いにしても?概ねそういうことでよろしいんじゃないでしょうか?!

ってくらい、はあ骨抜き。

好き。むり。しんど。ちょう好き。

シバちゃんといると、新しい自分が発見できる。しかし、ミヤジ。ミヤジかあ。うーん、ミヤジ、俺みたいなの嫌いそうだからな。そうじゃなければ早々に手を出して「ごめん、シバ。実はこないだミヤジに告白されて……いや、こんなのわざわざ言うことじゃないかなって思ったんだけど、シバの気持ち聞いてたし、黙ってんのも気持ち悪くて……だから、ミヤジは、諦めろよ」(意訳:俺にしとけ。)なんて手は使えそうにないし、どうすっかなーあ。まあおいおい考えましょう。ミヤジにシバちゃん。幸いにもお互いに行動力は無さそうだし、万一の確率も限りなくゼロに近いだろう。その点は安心しといていいかな、と。

俺に秘密を告白したシバちゃん、まだ少し頬っぺたが赤い気がする。いつか俺のことを考えてる時にこんな顔するようになってくれたらいいなって思う。心から、ほんと、心の底から、そう思う。

邪魔するやつとかみんな消したい。