no.81

読み終えたページが、ふぞろいの足跡を覆うように降っていく。
強くなるためにかけがえのないものを壊してきたこと。
弱さ隠すために寄り添えるものを切り捨ててきたこと。
傷につかれず傷をつけずに歩いてみたくてそれは不自由だったこと。
素直になることは隙を見せることだと思い込もうとしていて本当はただ怖いだけだったこと。
あたりがどんどん定型化されていくかに見えたので何もかも平気を装ったこと。
離れたくないことを気取られたくなくて嫌いな理由を並べ立てたこと。
そしてそれを誰にも言わないで新しいノートに書きつけておいたこと。
クラスのみんながかわいがっていた教室のハムスターを、てのひらからわざと落下させて死なせたのはぼくだったこと。
自分の手で殺せるものだけをかわいいと思えていたあの頃もいまもさほど変わらないこと。
ずっと抽斗に眠ってた、透明の定規をかざしたら、動脈に垂直の影が落ちた。
しずかな夜にこれまでの失態を思い出してすべてに責められて消えたくなること。
死にたいんじゃない。消えたいんだ。
そんな話をしたとしても、猫は笑うね。
だんだん騒がしくなる夜。
説明しなければ伝わらないような言葉なら、秘めておいたほうがいいんじゃないか。
そう思って不自然に黙ったままでいることも。
確率や可能性ではかれるものや、はかろうとすることを軽蔑することも。
生まれ変わったことにして踏み出したとしても。
かかとの靴擦れに気づいたふりをして立ち止まることも。
ふいに訪れた事件に運命を感じて、すぐ有頂天になってしまうことも。

夜に沈める。

そうすると次の朝が頭を擡げる。