no.80

真っ青な部屋の底から見上げたいつかの曇天。どこにも明らかにされなかった筆跡は暗号化されて眠らされた。指に絡まった蔦をたどっていけばあたらしい星座に辿り着く。そこからきみの輪郭ができあがる。まだこの世にいないきみのあたらしい幸福。あたらしい絶望。あたらしい地獄。あたらしい天国。まだ誰の名前もなぞったことのない声も。まだ誰の視界にうつったことのない姿も。まだなにものにも例えられない存在のすべてが。今までにない力でぼくを肯定していく。物語にならなくていい。ひとつのフレーズ。ひとつのシーン。わずかな一瞬を繰り返しなぞっていく。あたらしい細胞。あたらしいひと。早く凡庸に組み込まれて輝きを失ってゆけ。そしたらぼくにも触れることができて、そしたらきみは触れられる存在。あたらしいあたりまえで何かを歌って。ひとりぼっち、このかけがえのない自由からおたがいをほどいて。刹那ばかりを終わるまで続けて。おやすみもおはようも要らないこの部屋で。