No.515

向日葵が怖かった。見上げるといくつも並んだ暗い顔。行き先を訊ねて来る。そっちはだめだ、と口々に伝えたがる。中には親切な口調があって、笑いたいけど笑えない。表情がうまく浮かべられなくて。迷路から抜け出せなくて、たまに見える青の鮮やかさには容赦がなくて。気押され縮み混む。そしてまた道を見失う。ぎゅっと目をつぶったら、雑踏に立っていた。音と光に押し流されて、はぐれたりしないよう、ぼくはきみの手を握りしめている。そうか、おとなに、なったんだっけ。一瞬、だったね。ずっとだと思ったのに。向日葵に見下ろされる悪い夢は覚めることがないって。雑踏に飲み込まれそうになる。自分が進みたい方へ進む、前へ。つないだ手を握り直す。きみがひいてくれたぼくの手で。同じ命とすれ違う。ぼくたちはあの夏の生き残り。信じた希望のままに大人になったんだ。理想通りではなくても。ここまで歩いて来られたんだ。みんなの手の先に大切なものがつながっている。クマのぬいぐるみ。天体望遠鏡。白の汚れていないワンピース。お互い名前なんて知らない。回遊しているぼくたちを見下ろす星は、そっちはだめだ、ってもう言わない。どこにもハズレなんて無かった世界で、ようやくぼくたちは微笑みを覚える。