死にたい。たしかにそう聞こえた。だけどきみは生きたいと言ったのだそうだ。こんなにも重荷になってるなんて想像できていなかった。きみの嘆きはぼくを突き動かすためのものだった。八つに割れた鏡の中に入道雲がいくつも映って初めて夏を残酷だと感じた。首筋にあたる鋭利な冷たさに目覚めさせられることもなかった。どの道を選んでもいずれ同じ場所にたどり着いたんだろうか。答えは変わらなかったんだろうか。それは誰にも分からない。分からないからこそ、信じたいほうを信じることができる。助詞を組み替えて、誰も、悪者にならないようにしたかった。だけどそれでは届かないと知った。蹴落とすことは平気だったけど、非難の目が気に食わなかった。そんな中でぼくを見つめる目があった。他と違って、咎めない代わりにあわれんでいた。傷なんかちっとも怖くない。きみはぼくの主張を否定する。嘘だ、それは、怖くて、たまらない人のすることだよ。そう否定した。仕向けることは得意だった。特に、人の欲望をならして行く都会では。一度大切なものになってから裏切る。大きな傷になるくらいどうだっていい。後悔させたかった。間違いを認めて欲しかった。でも、今、手に入れた正しさは無意味だった。遠ざかって振り返る。花束だけを残して。ひとりで立ち上がるきみのむこう、ようやくひとつになった雲がいびつに羽の形をしている。