no.67

嫌いなものを好きになるまでの時間と、好きなものを好きじゃなくなるまでの時間と、どちらが長いのかな。きいろい果物がたくさん実った樹の下でそんな一言から会話を始めた。質問のようで質問ではなかった。戯れの開始宣言にすぎなかった。ぼくたちはいつもこういうことを話しているつもりで、まわりから見たら他愛もなかっただろう。だけど時間に終わりはあるから、一見むだなもののために費やすくらいの贅沢なら試してみたかったんだ。おとなにならないこどもはいなくて、こどもにかえれるおとなはいないけど、だからってこどもを忘れるおとなはいない。一度そうだったことを、ぼくたちは二度と忘れられない。予め呪われていたから。ふたりの頭上で緑を広げたこの枝が、若葉より以前の、枯れた落ちた一個の実だったころから。かわいがられ損ねた執念が、花を咲かせて種子を落として、いまぼくたちに見せかけの質疑応答にふさわしい木陰を与える。