no.62

好きすぎて後回しにする。積んだ本とか誰かとの約束とか。二番目以降から手をつける。だから一番目は崇拝対象のまま残っていつまでも不完全。たまに思い出して向き合うとそれは言う。おまえのせいでずっとさみしかったと。成る程ぼくのせい。に、違いない。だけどショートケーキのいちごは最初に食べてしまう。するといちごは拗ねるんだよ。一番目じゃなかったのかと。手をつけていいもの。つけてはいけないもの。正解をさがすから間違うんだな。帰ろうとするから迷子になるみたいに。耳慣れない言葉が頭上でかわされる時間だけは不在の実感。心地よい透明。死にたい日なんか無かった。誰にも覚えられずに消化されたかった。名前なんか。記号なんか。何かの印象で語られるくらいなら、あっ、というまの一瞬に窓の外を流れてったあの日の夕陽みたいに、当たり前のことみたいに、順番の呪縛から解放されて。叩き割ったナンバープレートを別の何かに見間違えて、空想でいいからまみれていたい。虹もオーロラもかなわない、空前絶後のスパンコール前夜。僕から相手にされないままのきみが可哀想で好きだよ。