no.452

ぼくはきみよりかしこいので
あとからでも
物語を書き換えることができる
それを自然に信じ込ませることも

なかったことをあったふうに言ったり
真っ赤なうそをほんとうにしてみたり
そして白昼にさらしても平気なほど
巧妙にいつわることだってできる

きみは海を見ている
ときどきは遠くの山を
窓の外を行き交うかもめを
入り組んだ港の往来を

その景色の中にぼくがいる
きみの時間を少しだけ分けてもらって
きみはぼくよりかしこくないけれど
そのことでぼくは劣等を感じることもある

勉強の出来不出来は関係ないのよ、
どの口がそれを言う?
(どの口でも)。
成績が良いことは魅力ではないのよ、
(どの口でも、ああ、どの口でも)。

みんなきみの何もないところに
光のようなものを信じている
努力で手に入れられるものは下等だと
どうせいつかは間違えるんだと

きみは素手でマーマレードを頬張る
汚れた頬が午後のひかりを浴びている
ぼくが睨んでいても爪を立てても
眠りたいと眠り食べたいと食べる

肯定と否定しかないのか
人間はそんなにつまらないのか
疑問はその人の質を決めるものだけど
きみはそれらからもそもそも自由だ

しんでしまえばいいのに

だけどそうしたら永遠になるだろう
伝説のようになるだろう
きみはいつまでも若くて綺麗なままだろう
どうやらぼくはかなり嫉妬深いようだ

花をたずさえたまには歩み寄る
何も返ってこなくて不正だと思う
数字のカードをばらばらにする
人体の基礎も知らないくせに

きみがこの部屋を出る日はないだろう
眺めているあの海で泳ぐことや
緑の山頂からこちらを見下ろしたり
往来でかもめの鳴き声を聞くことも

ぼくはきみよりかしこいので
そう言い聞かせることができる
だけどいずれ無効になることもわかる
きみはたまにぼくを向いて微笑む

ねえ、マーマレードって知っている?
ヨットの上で受ける風のつよさ?
テントの立て方なんかどう?
天国や地獄について聞いたことは?

どうしようもないのは
きみの世界のせまさ
もっとどうしようもないのは
それを拡張できないぼく

誰につけられたのでもない
傷口ばかりおおきくしていく

しゃべりたいだけしゃべると
きみは、すう、と眠りに落ちる
ぼくはその寝顔ばかりを見ている
海がどんなふうに色を変えても