病室の椅子から立って
起きないあなたを見下ろして
窓の外の水平線を眺めて
同色のまぶたに銃口を向ける
だってまたいなくなるかもしれなくて
ぼくの前から姿を消すかもしれなくて
次は戻らないかもしれなくて
もう奇跡は起こらないかもしれない
ほかのやりかたがわからなくて
たぶん今じゃなくてもよくて
だけど尊いなって思ったら
もう今しかないような気がした
波がちいさく光ってる
どんな言葉も切り刻んで
寡黙であることの優位性を見せつけてくる
ぼくは次の季節を受け止められるだろうか
まぶたがひらいて銃口に気づく
まばたきをしてぼくのことを見る
それからもう一度銃口に視線を戻し
ちいさく笑うとまた目を閉じた
(世界で、いちばん、しあわせな坊や。)
人差し指がトリガーを引く
銃口は火を吹かない
チープな万国旗も出てこない
何故ならそれはオモチャではない
どうしても。
生まれ変わってもかなわない
あなたは知らなかったはずだ
装填されていたかも知れなかったわけだ
それでもあなたはまた目を閉じた
ガーゼの白がいばらの棘より鋭い
途方もなく甘やかされている
ぼくは、許されている
海だけがそこにあって告発者は不在。
本物だったらどうしていたの
嫌いになんかならないよ
そういうことをきいているんじゃない
世界でいちばんしあわせになるよ
怖くなかった?
まさか
ほんとう?
きみがかなしむことに比べれば
甘やかされている
血も骨もつくりかえられていく
あなたは何も知らないぼくに
すべてを差し出すことですべてを受け取る。