no.444

病室の椅子から立って
起きないあなたを見下ろして
窓の外の水平線を眺めて
同色のまぶたに銃口を向ける

だってまたいなくなるかもしれなくて
ぼくの前から姿を消すかもしれなくて
次は戻らないかもしれなくて
もう奇跡は起こらないかもしれない

ほかのやりかたがわからなくて
たぶん今じゃなくてもよくて
だけど尊いなって思ったら
もう今しかないような気がした

波がちいさく光ってる
どんな言葉も切り刻んで
寡黙であることの優位性を見せつけてくる
ぼくは次の季節を受け止められるだろうか

まぶたがひらいて銃口に気づく
まばたきをしてぼくのことを見る
それからもう一度銃口に視線を戻し
ちいさく笑うとまた目を閉じた

(世界で、いちばん、しあわせな坊や。)

人差し指がトリガーを引く
銃口は火を吹かない
チープな万国旗も出てこない
何故ならそれはオモチャではない

どうしても。

生まれ変わってもかなわない
あなたは知らなかったはずだ
装填されていたかも知れなかったわけだ
それでもあなたはまた目を閉じた

ガーゼの白がいばらの棘より鋭い
途方もなく甘やかされている
ぼくは、許されている
海だけがそこにあって告発者は不在。

本物だったらどうしていたの
嫌いになんかならないよ
そういうことをきいているんじゃない
世界でいちばんしあわせになるよ

怖くなかった?
まさか
ほんとう?
きみがかなしむことに比べれば

甘やかされている
血も骨もつくりかえられていく
あなたは何も知らないぼくに
すべてを差し出すことですべてを受け取る。