あの熱狂がいつか終わるなんて、だれも思っちゃいなかった。夜の凪のようにかけ離れた、あまりに遠くかけ離れたものだった。だからって幻だったなんて言わせない。再現できない精巧なホログラム。まったく同じと言い張っても少しずつ書き換えられているよ。なるべく繰り返さないほうがいいんだ。ほんとうはね。どうしても眠れない夜に少しだけ巻き戻したなら、あとはそっとしておくんだ。変形しないように。歪曲しないように。いびつであっても愛せるだなんて思うなら、それがまだ原型だと狂信しているだけのことだと思うな。甘いんだよ。何もかもが。ぼくも、あなたも。革靴に宝石を仕込む。誰の、どんな期待も、その仕草に打ち負かされる。ちいさな心臓。個性のない鼓動。だけどそんなものに左右されたりしない。あなたはあなただけを生きる。ぼくがぼくだけを一回きり生きるように。物語は終わらない。だってまだ始まってもいない、この物語は。