no.423

鳥の羽根に身をうずめて、だいじょうぶ、ぼくは、知っているよ。なんでもない風景の中にきみが今も息づいていることを。それは水たまりが反射すればまぎれてしまうような光でしかなくても。かつてぼくがいた場所を忘れていない。いつか忘れてしまうのはきっときみが先なんだろう。だってここには時間ばかりがあるもの。その他には、きれいなものと、香りのいいものばかりが。あたたかくて、あまい。すり抜けていってしまうものばかりだ。ぜいたくであることとゆたかであることは等しくないね。まったく違うものでもないんだけれど。空がつながっていても意味はないね。声がとどくだけじゃ意味はないね。欲求はどんどん密度を増して、こんな今じゃがまんできなくなる。しあわせにならないでなんて願うこともある。どんな感情でもいい、忘れないでくれ。ぼくがつかれて眠っている時も、きみはぼくを忘れないでほしい。ここには何でもある。手をのばせば青い宝石が、緑のねこが、黒い靴が、白い水が、橙の葉が、黄の雛が、いつでもすきなだけ手に入る。彼らはぼくに要らないと言わせたいんだよ。だけどぼくは馬鹿じゃないので、欲しかった、ありがとう、って顔をする。退屈だよね。きみに会うことが恥ずかしくなるまで自分に嘘をつく。足首にひっかけて放り投げた冠も、眠りから覚めればまた頭上で光ってる。