【小説】ライアー&ライアー ~風邪引き編~

ロイドが風邪をひいた。
あのロイドが?そんな馬鹿な?
と誰だって思うだろうしぼくも確かにそう思ったし、まあ嘘だろうな。と思ったのでそのまま放置して書斎で読書に没頭しているとドアをひっかく嫌な音がしたからとりあえず声はかけてみる。

なんだ、うるさい。
すみません、ご主人。貴重なお時間を邪魔してしまいまして。
わかってるならそれなりの理由があるんだろうな。
はい。
言ってみろ。
……、を。
きこえない。
どうか、添い寝を。

かるく一時間は無視した。
喉が渇いてきたので紅茶でも淹れようと部屋を出ると、すぐのところにロイドが立っていた。
驚いたぼくは罵声を浴びせようとして開きかけた口を閉じた。
確かにロイドは風邪をひいているように見えた。
上気した頬。
潤んだ目。
心なしかいつもよりしおらしい。

まさか本当に風邪をひいたのか。
はい。
嘘だろう。
いいえ。今までになく体が火照っています。
ほんとだ。おまえ、これまで病気にかかったことなんかないじゃないか。なに人間みたいなことやってんだよ。気持ち悪いよ。
気持ち悪いは言い過ぎかと存じます。
言われ慣れてんだろ。
遺憾ながら。
とりあえずそこどいてくれないか。ぼくは喉が渇いた。
添い寝を所望いたします。
知らん。
そうおっしゃらず。
何されるか分かったもんじゃない。
添い寝だけです。
ぼくまで風邪をひいたらどうするんだ。
そうしたら御礼に私が添い寝をしてさしあげますから。
そうしたら今度はおまえがまた風邪をひいて、エンドレスになるじゃないか。永遠のループには巻き込まれたくない。
お馬鹿ですねえ。
なんだと?
いつまでもループするわけないじゃないですか。
わかんねえよ、そんなの。おまえの口車かもしれないし。
試してみたらいいではないですか。
試す。それもそうか。
ええ、では早速添い寝を。
その前に紅茶。
寝室で待っておりますね。うふふ。

やたらうきうきした様子のロイドを見送り、今のやりとりの中に何かしら策略が企図された気配を感じたけれど、紅茶飲んだら忘れた。けろっと。

約束通りロイドの寝室へ行ってみると壁一面にぼくの似顔絵が貼ってあってたじろぐ。今に始まったことではないがなかなか慣れない。

面白いか?毎日おんなじ顔ばっか見ていて。
面白くはありませんよ。
だったら。
ただただ愛しいです。
熱は?
少し下がりました。だけど添い寝を所望します。
わかった、わかった。先にベッドに入ってろ。
わくわく。
口に出てる。顔にも。
出しました。
自覚あんのかよ。
あります。
それにしてもロイドが風邪ひくなんてな。おまえ実は少しずつ人間になってるんじゃないのかな。
まさか。ただのバグでしょう。
人間で言うところの、病気みたいなものか?
ええ。
そうか。おまえにもいつか寿命がくるのかな。
さあれば大変嬉しゅうございますね。
嬉しいか?
ええ。もう、思い出さなくて済みますから。
何をだ?
ずっと、記憶しているものを。

ぼくはロイドの横顔を見る。見つめる。瞼を開いたロイドと目が合う。
端整に端整に作られたロイドだから、非の打ち所なんか無い。完全なシンメトリー。それが生身で無いことの証明。唯一の。だけど。
ぼくはふと思う。
(ぼくがそう、信じているだけでは?)
疑惑は次第に膨らみ始める。
止めないでいると勝手に破裂する。
風船とおんなじ。風船とおんなじなんだ。一度破裂した後は、二度と膨らまない。

あなたより先にはいなくなりませんよ。
そんな心配してたわけじゃねえ。
ほら、さみしそうな顔。
都合よく解釈すんな。眠いんだよ。
なんと無防備な。この私に私の理性と対決させるおつもりですか?
何言ってるのかさっぱりわかんねえよ。寝ろよ。風邪ひき。
寝ます。ご主人が寝たら。
なんだよそれ。
ご主人より先に寝るようでは、ふがいなさが恥ずかしゅうございますから。
そういえばロイドの寝顔見たことないな。よし、先に寝ろ。
いえいえ。ご主人こそ、お先に。
今日こそ寝顔暴いてやる。ロイド、寝ろ。
寝ません。ご主人こそ寝てください。
寝ろ。
寝てください。
寝ろ。
寝てください。
寝ろ。
寝てください。

そんなやりとりの後、先に寝たのはどちらだったか。
確かめていないということはきっと、ぼくのほうだったんだろう。
昨夜も遅くまで読書していたせいだ。

ぼくはうとうとと眠りの海に沈んでいく。
光が消えて、ロイドの鼓動が聞こえた気がした。
そんなもの、有るはずはないのに。

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