no.415

きみはもう逃げ込まなくなった。
きっと強くなった。
だけどたまに振り返ることがある。
あの弱さは僕を僕たらしめるものだった、と。
誰もいない暗闇の優しさとあたたかさを思い出して。

ほかに光がないおかげで自分の色を知ることができたんだ。

一気に忘れてしまいたかったな。
なのに、すこしだけ覚えてる。
それは悲しいことだった。

さよならを言っても振り返らないものを知っている。それが僕を生んでここまで育てたものの正体だとして、だけどしずかに失われてゆくんだ。希望だの愛だのにすり替わってゆくんだ。そのうちに違和感も覚えなくなってゆくんだ。

そんな牙じゃ風船も割れない。

だから優しい人に出会うといつも少し不安になるんだ。いつかさよならをするんだね。それは避けられないんだね。

だけど台無しにはしないよ。

それが、あの暗闇で佇んでいるだけだった僕が覚えたたったひとつの確かなこと。疑う必要もないことだから。