no.395

月は笑顔じゃなくて爪痕なんだよ。うらやましいって言葉の裏には、自分だってできるのにって思いが隠れてる。僕が何言ってるかもう分かっているんだろう。あなたは知ってることほど知らないふりをするんだな。間違わなくていいところで間違うんだもの。馬鹿にされている気分。まあ、たぶんされてる。自分がいつも目で追っているものを考えてごらん、あなたは言う。それは少し自分に似ているだろ。まさか。いや、気づいていないだけということもある。僕は信じない。信じる信じないではない。もう、そうなんだから。僕は納得のいかない顔で話を聞いている。聞かなくてもいいのに。そっぽを向いて立ち去ってもいいのに。悪者はきみの心に、頭の中に、いともたやすく土足で入ってくるだろう。だからって相手ばかり悪者にしちゃあいけない。ある意味ではきみだって共犯者なんだよ。侵入させるために扉を開ける役目を果たしたんだから。うそだ。なるほど、また信じないというわけか。背が高いと思っていた男の正体は影法師で、僕は本体に背を向けているのだった。絶対にあなたを見ないぞ、そうつぶやきながら振り返った目の先にあったのは、足のない子ども。正義の対義語はまたべつの正義だ。ぼくはちっともわるものじゃない。子どもは舌足らずを使いこなして涙目で僕にそう訴えた。